
企業の統合・合併などに伴うアメリカビザ手続き ― 会社再編で見落とされがちな「ビザの有効性」チェック ―
「報酬が出ないから大丈夫」は、実は危ない
「今回は報酬の出ない打ち合わせなので、ESTAで行かせます」
米国出張のご相談をいただく中で、このような判断は非常によく見られます。
感覚としては自然です。
「お金をもらわない=商用の範囲だろう」という考え方です。
しかし、この基準で判断するのは正確ではありません。
米国のビザ免除プログラム(VWP/ESTA)やB-1ビザで重要視されるのは、報酬の有無だけではなく、米国内でどのような活動を行うかです。
報酬が発生していなくても「就労」と見なされるケースはあります。
つまり、「対価があるかどうか」で判断してしまうと、リスクのある渡航を見逃してしまうというミスにつながります。
米国国務省およびFAM(Foreign Affairs Manual)では、B-1ビザの対象となる商用活動として、主に以下のようなものが挙げられています。
これらを見ると、「比較的広い範囲が商用に含まれる」と感じるかもしれません。
しかし重要なのは、どこまでが許容される商用で、どこからが就労になるのかは明確に線引きされていないという点です。
FAMでも一般的な商用について明確な定義は置かれておらず、専門家の間でも見解が分かれることは珍しくありません。この曖昧さこそが、実務担当者が判断に悩む最大のポイントです。
実務上は、「何をするか」という観点で整理することが重要です。
特に以下のポイントでチェックすると、判断の精度が上がります。
これらの要素に「はい」が増えるほど、就労と判断されるリスクは高まります。
例えば、以下のようなケースです。
現地法人の営業担当が行うべき顧客訪問や見積書の作成を日本からの出張者が代わりに実施した場合、それは「現地業務の代替」と見なされる可能性が高くなります。一方、同じ営業活動でも、製品の専門的な情報提供や日本の生産プロセスの説明、現地営業スタッフへの同行サポートにとどまるのであれば、就労と見なされる可能性は低くなります。
なお、判断に迷うケースでは、「活動の主たる本拠地と利益の発生場所が米国外にあるか」という観点も有効です。米国での活動が、主として日本で遂行される業務に付随的なものであれば、商用と整理できる余地があります。
近年、入国審査でトラブルになりやすいのが、設備・装置に関わる現場対応です。
理論上は、「立ち会いのみ」「口頭での助言・指導、手本を見せる程度」であれば商用の範囲に収まると整理されることもあります。しかし実務上は、現場に入り指導・監督を行う行為自体が入国審査で問題視されるケースが増えています。
「アドバイスだけだから大丈夫」と考えるのは危険で、現場に入る時点で判断が厳しくなる傾向があります。
このような場合に検討すべきなのが、B-1の枠組みで例外的に作業が認められる、いわゆる industrial worker のケースです。米国外から購入された設備・機械の据付・修理・トレーニングであることに加え、売買契約書にそのサービス提供が明記されていること、派遣者が作業に不可欠な独自の知識を有すること、米国を源泉とする報酬を受け取らないことが求められます(建設実務は対象外です)。
ここまでの基準で整理しても、白黒がはっきりしないケースは多く存在します。
実際、同じ案件でも専門家によって見解が分かれることは珍しくありません。
最終的な判断は、入国審査官や、問題発生時の移民当局の解釈に委ねられます。つまり、企業として「これは絶対にセーフ」と断言することは現実的には困難です。
だからこそ重要なのは、自社としての判断基準(線引き)を持つことです。基準があれば、審査時にも一貫した説明が可能になりますが、なければ現場判断に依存し、属人的な対応になってしまいます。
「短期出張だから問題ない」
「ビザが間に合わないから今回は例外」
こうした理由で、本来ビザが必要な活動をESTAで済ませてしまうケースも少なくありません。
確かに、短期であれば問題にならないケースもあります。
しかし、それは「見逃されているだけ」であり、適法であることとは別問題です。
虚偽申告と判断された場合のペナルティは深刻です。一度入国拒否を受けると、ESTA申請時の「入国拒否歴」の質問に「はい」と回答することになり、以後ESTAの認証はまず通らなくなります。観光目的のハワイ旅行であってもビザ取得が必要となり、入国拒否の記録はそのビザ取得自体も困難にします。しかも現時点では申告対象となる期間の区切りが設定されておらず、影響がいつまで続くかは分かりません。
さらに重要なのは、影響が個人にとどまらない点です。同じ会社からまとまって渡米した場合、一人の入国拒否により、すでに審査を通過した同僚の入国が取り消されることがあります。
一つでも迷う項目があれば、渡航前に専門家へ確認することを強く推奨します。
「このケースは問題ないだろうか」そう感じた時点が、確認すべきタイミングです。
米国出張におけるビザ判断やリスク管理について、企業担当者様向けの個別相談を承っています。
実際の出張内容をもとに、リスク評価・必要な対応・社内基準整備まで整理いたします。